山本裕之のコラム 2009.11.11
  
  
    ★2009.11.11      
      nono
    
    
    『....................ようこそ、いらっしゃいませ』
    『........やあ、こんばんは.......』
    『..............................』
    『..............................』
    『.............何になさいましょうか?』
    『ボウモアのダーケストの旧ボトルは、まだあるかな?』
    『ございます』
    『では、それを、ストレートで』
    『かしこまりました................』
    『それと、』
    『レーズンですね?』
    『.........ああ、ヨロシク』
    『..............................』
    『..............................』
    『.............お待たせいたしました』
    『ありがとう』
    『..............................』
    『..............................』
    『..............................』
    『............不義理してすまなかったね』
    『"不義理"
    なんてコトバは今の"夜遊び"の世界では死語に近いですよ、誰も店に義理はカンジなくなった..............それに、まだ半年も開い
    てないで すよ』
    『もう半年、だよ、申し訳ない』
    『とんでもない、一期一会がこのバーの信条です』
    『..............最後はいつだったかな?』
    『後輩の方とご一緒のときです、お世話になってます』
    『最近彼は、いつ来た?』
    『..............................』
    『そうだった、キミはこの手の質問には答えない.....良いバーテンダーだ...............オレは、彼にこの店をウマく引き継げ
    たのだろ う か.........』
    『問題ないと思います、ありがとうございます、あとは、彼のライフスタイル次第です』
    『.............だな、でないと安心して去れない』
    『.....去る..........』
    『..............................』
    『..............................』
    『..............キミも、一杯つき合わないか?この時間のこの雨だ、支障あるまい』
    『..............................』
    『3回勧められるまでは呑まない、か、キミのルールは尊重するが、』
    『....いえ、今日はいただきましょう........最後に、同じものを........』
    『ふふ、さすが、察しが早い』
    『僕も20年選手ですからね』
    『まだまだだがな、オレは40年選手だ、それも今日で引退だ』
    『..........でもなぜ?』
    『答えがいるかね?』
    『..............................』
    『..............................』
    『.........................いただきます』
    『..........ああ.........キミに教えてもらった酒だ』
    『いい酒です』
    『.........................................オレという人間が、バーで酒を呑むのには歳を
    とりすぎただけさ、いつの世も酒場は若者が中心じゃなくてはならない、オレのようなオヤジは色に溺れてカッコ悪くなる前に退散
    だ................後進もできたコトだしそろそろ潮時さ、しかしよく遊んだと思わないか?もう遊び飽きたよ』
    『..............行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与らず我に関せずと存じ候、各人へ御示し御座候とも毛頭異存これ無く候』
    『ははは、勝安芳、か、キミらしい、なんにせよ、オレはそれほど粋者ではないし評価されるべき酒呑みでもないさ.............』
    『僕はそうは思いませんが........』
    『..............................』
    『..............................』
    『..............................』
    『............聞いてもいいかな?』
    『なんでしょう?』
    『ずっと聞きたかったんだが、キミはなぜ勧められても呑まない?』
    『理由は2つです、ひとつは、僕は味覚というか香りに対する感覚がどうもヒトより優れてるみたいなんですが、酒を呑むと著しくその感覚が失われる
    んです、
    一杯何百円もする商品をそんなイイカゲンな味覚で造るなんて他の職業じゃ考えられんでしょ?......ましてや、いただきまーす(ホステス風
    に)、なん て、そんなコトだから水商売の地位はいつまでたってもあがらないんです』
    『それは、正論だ、もうひとつは?』
    『.........ココだけの話ですが.......』
    『なんだろう?』
    『..................酒くらいヒトの金で呑まなくても自分で呑めるわい、って思っているからです』
    『ははは』
    『これはくだらないプライドかもしれません』
    『ワルくはないよ』
    『ありがとうございます、僕はお客さんをトモダチだと思ったコトは一度もないんですが、同時に自分がお金で買われているとも思ってません、お金は
    商品によ る対価でしかなく、店員とお客さんは対等であるべきだと生意気ですが思ってるんです』
    『なるほど.........それは我々酒呑みも注意せんといかんな』
    『いえ、これは僕のただの持論です、お客さんにこんな話をするのはゲスいですよね、すいません』
    『キミらしい意見だ、最後に聞けて良かったよ』
    『.................無粋ですいません.............』
    『..............................』
    『..............................』
    『..........................ところで以前キミに教えてもらった、バーテンダーが観るべきだっていう双子の映画はなん
    てタイト ルだったかな? あの、ブルックリンの煙草屋のヤツ』
    『"スモーク"と"ブルーインザフェイス"ですね、あのオーギーレンこそバーテンダーの手本です』
    『ハーヴェイカイテル、だったね』
    『ハマり役です』
    
    
    
    『あれらの映画の素晴らしさは汚い部分も含めて人間だってコトをみせてくれてるトコだな、"ブルーインザフェイス"
    の中で、ジャームッシュがオーギーと最後の一服をやるシーンがあったろ?』
    『素敵なシーンです』
    『
    今日オレはあれをやりにきたんだ、そうするコトに意義があるのかはよくわからんがね、儀式みたいなもんかな..........最後の一杯を好き
    な場所で 好きな酒で』
    『.......僕にもその意義はわかりませんが、少なくともオーギーも僕もこの店も、善も悪も包括しています』
    『 THIS IS IT! それこそが、バーだよ』
    『..............................』
    『..............................』
    『..............................』
    『キミは........このバーはひとりのオンナだ、と言った』
    『僕は、そのオンナをただ見守っているだけです................いいオンナでしょ?』
    『この店はオレのホームではなかったがオレは幾度となくココで救われた、だからこそ最後はキミに、いや、このイカすオンナに、看取ってもらうコト
    にしたん だ.......』
    『光栄です.................でも、寂しくなります..........』
    『さほどでもないさ....................』
    『..............................』
    『..............................』
    『..............................』
    『ただ........バーを引退するだけだ........old soldiers never die, they just fade
    away.』
    『........................では、その老兵がバーで初めて酒を呑んだときの話でも聞きましょうか?あの映画のよう
    に............』
    
    
    
    
    
    
    
    『..................さて、話は尽きないが、そろそろおいとまするとしよう.......最近のオトコはしゃべりすぎる、だ
    ろ?』
    『.......かもしれません』
    
    
    『ところで、あの江戸っ子のアニキは元気かな?』
    『..........お亡くなりになりました』
    『..............................』
    『..............................』
    『...................そうか.................粋なヒトだった』
    『同感です..........』
    『....................そうか..............』
    『..............................』
    『.................最後だし、キミにひとつアドバイスがある』
    『なんでしょう?』
    『............カッコつけて生きろ! それこそ我々が後進のキミたちに望むコトだ』
    『........はい、ココロしておきます............』
    『じゃあ...............』
    『.........................長い間ありがとうございました』
    『...........こちらこそ......楽しかったよ........いざ、さらば、だ........』
    『さようなら、お元気で........』
    
    
    
    
    
      いろんなヒトたちが僕の扉を開け、何かを残し、そして、去っていく。
      
      9年という歳月は、そのほんのひとときでしかない。
    
      
    
    
    
      
      2009.11.15 思い出し加筆
    
    
    nono
      muchas gracias