山本裕之のひとりごと2008.7.11 ★2008.7.11      ちっちゃなダイアモンド


  十数年前、あるテレビの番組で若きブルーズギタリストが、どうも自分の演奏が本物のブルーズマンのようにならないので探偵さんに解決して欲しいと 依頼(そ んな番組はひとつしかないか......)した。当時大阪で活躍していたブルーズギタリスト氏にその依頼者の演奏を聴いてもらったトコロ、経験が 少ないの で深み こそないものの技術自体は悪くない、しかし何かが足らない、何が足らないかはわからんな、という答え............."何か"とは、を 探すべく 様々なヒトに演奏を聴いてもらうが一様に同じ感触で答えが見つからない。そして行き詰まった彼らはブルーズなので黒人に訊いてみよう、ということ でその辺 にいる黒人を捕まえて聴いてもらう。そして黒人は少し考えてこう言った。
................ペインが足りない..........

  先日、弊店でブルーズギタリストのM氏が、今のヒトはブルーズを聴かない、と嘆いておられた、何かしなければ、と意気込んでおられた。(諸先輩方 が何かを 伝 えるためにアクションをおこされる姿は素敵だ。)
  そもそも大阪は、R&Bなどブルーズミュージックの盛んな土地だった。今はクラブになっている場所でも以前ライブハウスだったトコも少な くない、 大阪は劇場もそうだがコバコ主流の文化だった、しかし近年どんどんそのコバコが姿を消している、オオサカンブルーズの衰退もそういう時代の流れで あろう、 下町のおばちゃん売りや関東系のU-40のコドモ向けのマスに媚びた "ブルーズ風" ばかりが売れている、それが現実だ。
  もっとディープな泥臭いヤツやスポイルされていない色気のあるヤツや退廃的で危険なヤツが聴きたいんだよなぁ..........



  どうしても秋葉原の事件が頭から離れない。
  僕は、★2007.5.27 虐めと江戸っ子 でも述べたが、地下鉄サリン事件という無差別大量殺戮テロを境に人々の精神的タガがはずれたと考えていて、少し犯行主旨は異なるがその後の 9.11も含 め、この希望の見出せない世界への反発のエネルギーだとも思っている。
  今回の事件も延長線上にある。
  しかし今回、僕をもっと暗くするのは犯行者が ひとり だったコトだ。指導者もいない、精神的洗脳もない、同士もいない、被害者に対する犯行動機もない、なのに綿密な計画をしている。リストラによる喪 失感や孤 独感やゲームの影響やネット社会の弊害など専門家は分析しているようだが僕にはどうもそれだけじゃない気がしてならない。
  なぜなら、僕は彼が犯行に及んだ 経緯やネット上に書いた記録などを何度も読んだのだが、そこに在るそれは僕の昔感じていた、また普段感じているそれとさほど差がない、自分が堅実 にやって るにもかかわらず社会の底辺で喘ぎ何をやってもなかなか上手く行かなく行き詰まり、歪んだ社会に憤りを感じている。
  つまり単に同情ではなく(テロリストに同情なんて間違ってもしない)★2008.2.22 go go happy day を読んでもらってもわかる通り僕も "同じ" だと言う事だ。
  では、彼と僕とは何が違ったのだろう。僕が彼よりもよくがんばっているからだろうか、運がよくて恵まれていたからだろうか、違う、結局、溜め込ん だエネル ギーの解放の向き方が全く違うのだ。


  何かを創造する、といったエネルギーは2つの異なった状況に於いてのみ解放される、と僕は考える。
  まずひとつは、自由からの解放。積極的自由、消極的自由などという哲学的な話はおいといて、何もないトコロから生み出すエネルギーの解放。これに は、奴隷 制度など身分階級が必要不可欠だ、古代ギリシアや古代ローマが学問を、帝国主義の搾取による経済力で謳歌した芸術を、自由に(何らかの犠牲のもと に)生み 出せた。本来の創造がある。
  もうひとつは、抑圧からの解放。ブルーズミュージックをはじめとする現代音楽やエンターテイメントは、この複雑化した現代社会のプレッシャーや歪 みで生じ たエネルギーの解放である。面白いが現代スポーツは疑似抑圧を利用してエネルギーを結果に向けている。

  根強い差別は残るものの身分階級のない現代社会に在っては、芸術も音楽も白紙の自由から生みでるコトは不可能に近い、皆飯を食わなきゃならないた め日常を 生きると様々なコトが影響し合うのだ、また、コミュニケーションがさかんになると本来の創造性の邪魔をし、逆にコミュニケーションの中でエネル ギーの逃げ 場を探すしかない。


  今回の事件も含め、最近の猟奇的犯罪全てに言えるのだが、加害者たちは溜め込んだエネルギーを自分の中で爆発させて解放せずに他人に向けて放出し て攻撃し て 爆発させている、自己責任は無視だからタチが悪い。
  彼らは溜め込んだエネルギーを、音楽、芸術、スポーツ、プロフェッショナルなシゴト、探求できる趣味、自然に対する慈愛、恋愛などにもっと向ける べきだっ たのだ、教育者たちもクリエイティビティのない学問ばかり押しつけてないでそのような生きる術を教えてやって欲しいものだ。成果主義がすぎて、文 化を疎か にしすぎたせいだ。


 アフリカから連れてこられた黒人たちは、不条理な状況で何処にも辿り着かない思いを、そのペインを、そのエネルギーを、一部ブルーズ などの音 楽にした、いや、そうしなけば生きていけなかった。
  彼らはそういったエネルギーをトコトン解放しトライし今や大統領候補まで生み出した。



  だから、今一度言う、バーで酒を呑もう。
  リアルなコミュニケーションで活きた情報を交わそう、ネットの世界のヴァーチャルなコミュニケーションだけでは結局 エネルギーは解放されないのだ。逆に蓄積汚濁する。

  そして、ブルーズを聴こう。
  今のこんな暗い世の中こそがブルーズだ、十数年前の気楽な時代とは違う今はみんながペインを抱えている、ちっちゃなダイアモンドだけでいいからと 求めてい る、だから、 溜め込んだエネルギーを音楽で表現し解放するだけでいい、共有すればいい。

  所詮はみんな "同じ" なのだから.................



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